第29回「カリウム」

「人体は60兆個の細胞でできている」といわれています。その一つ一つの細胞を覆う細胞膜には、ナトリウムとカリウムを入れ替える小さな出入り口がたくさんあります。細胞内のナトリウムを細胞外に排出し、それと同時に、細胞外のカリウムを細胞内に取り組むのです。具体的には、ナトリウムを10原子排出するのと同時に、カリウムを10原子取り込みます。つまり、同数ずつ入れ替えるのです。この出入り口は、「ナトリウム-カリウム・チャンネル」と名付けられています。だから、自動的に細胞の中には、カリウムが多くなると同時にナトリウムは少なくなり、細胞の外(細胞と細胞の隙間や血液)には、カリウムが少なくなると同時にナトリウムが多くなります。

血液中のカリウム濃度が高くなると、不整脈が出現し、ついに心臓は心室細動を起こし、止まります。そのカリウムを体外に排出するのは、腎臓の役割です。
くも膜下出血などの重病で倒れ、救急病床で治療をしていた場合、起死回生の治療ができなければ、徐々に腎臓が悪くなり、血液中のカリウム濃度が上がってきます。カリウム濃度が7.0mEq/Lを超えると不整脈が多発し、心臓停止に至ります。

日常生活でカリウムが不足することはありません。しかし、カリウムを多めに摂るとナトリウムの排出が促進されるので、高血圧の治療や予防に有効かもしれません。一方、慢性腎不全患者では、カリウムの排出ができず、体内に蓄積して不整脈から心停止の可能性が高まるので、カリウムの摂取を制限します。通常摂取量でカリウムを多く摂ってしまう食品は、キュウリ、スイカ、メロン、バナナ、海藻類です。

採血の結果で、カリウムが高くなっていてギョッとすることがあります。たいていは、採血したスピッツを長時間放置したために、赤血球が壊れて、赤血球内のカリウムが血清中に漏れ出た場合です。
また、ワーファリンを飲んでいる時に納豆を食べてはいけないといわれますが、これは、ビタミンKの話です。

カリウムとビタミンKを間違える人がいますので、ご用心ください。